橋本紡「流れ星が消えないうちに」

高校時代から付き合っていた恋人・加地君が、 自分の知らない女の子と旅先の事故で死んでから、1年半。 奈緒子は、加地の親友だった巧と新しい恋をし、 ようやく「日常」を取り戻しつつあった。ただひとつ、 玄関でしか眠れなくなってしまったことを除いては――。 深い悲しみの後に訪れる静かな愛と赦しの物語。

遺された人が過去に縛られながらも、それでも前を向こうとするお話し。逝ってしまった人の残したのというのは時にとても残酷で、過去を無理矢理引き出そうとする。この本の前半部分でとても良く描かれている。遺されたものというのは、端から見れば何の変哲もないものであったりすねけれども、それでいてある人にとっては逝った人の断片であり、そこから記憶は引きずり出されていく。この作者さん心理描写が上手いけどこの作品は秀逸。

テーマは重いだけに作品も重くなりがちなのを一人称で軽くなっている点と、二人の間で視点移動させるという手法によって作品の影となる部分を減らして、逆に伏線を張っているお得意の手法。賛否両論あると思うが、今回に関しては妥協点といったところ。視点移動のデメリットも少しでてしまっている感。

後半は逝ってしまった人のことは心にとどめつつ、前に進むという人がだれしもやっていくであろう過程を描いている。少し収まり切っていない感がするが、着眼点が良いのでそこまで気にならない。

猫泥棒と木曜日のキッチンに続いて家庭問題も絡められているが記述不足。広げた風呂敷を畳みきれていない感が残るのが残念。

全体的には秀逸な作品の部類に入ると思うし、特に主人公の年相応(二十歳前後)の方が読まれるならよい作品だと思う。

(文/川端祐哉)

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