横山秀夫「顔 FACE」

この小説は、まず廃校となった山間の分校跡地からタイムカプセルを掘 り起こし、開封をする。そしてそこには一人の婦警さんになりたいという作文が出てくる。このプロローグから始まる。

主人公は、D県警本部で働く平野瑞穂。今は広報でイラストを描いている。彼女の心は深く傷ついていた。それは以前、鑑識課で犯人の似顔絵を作成する仕事をしていたときはまだ希望に満ちていた。どんな傷つくような周りの言葉にも耐えることが出来ていた。

それが1年前、老婆のひったくり事件で犯人の似顔絵を作成した。ところが捕まった犯人は似顔絵とは似ていなかった。それは似顔絵をみて犯人を知っているコンビニ店主は「こいつは何かをやらかす」そんな先入観があったために似顔絵の髪型だけを見て「あいつに間違えない」と口走ったためにこうなってしまった。

先入観、思いこみというのは怖いものだと思う。実際は違うものでも思いこみようによってはそう見えてきてしまうと言うことは実際間々あること。会見の時間が迫り、記者たちには「似顔絵逮捕第1号」とおふれを出していたため、せっぱ詰まった課長は瑞穂に似顔への改ざんを申しつけた。そして彼女は命令にしたがった。しかし、その裏で心は傷つき自己嫌悪と後悔にさいなまれ無断欠勤、失踪騒ぎ、半年間の休職となり、広報へと移動してきた訳だ。

ここには5つの事件が彼女の目を通して書かれている。その一つ一つには悲しみに満ちた心が描かれていると思う。そして事件を絵を通して解決していく瑞穂の心の葛藤も。彼女の心の傷口がいつふさぐことができるだろうか。

(文/ののこ)

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