美咲は1時間後に、清のアトリエを覗いた。
そこには一心不乱に絵を描いている一人の男がいた。顔は真っ赤で鬼の形相。
そして、猛烈に汗をかいていた。
「少し休憩しましょうか」
一回では気づかれず、少しトーンを上げてもう一度声を掛けると、ようやく気づいてもらえた。
「あー、もう1時間経ったんですね」
清は、こちらの世界に戻ってきたようなホッとした表情をした。
アイリも内心、心配していたのかバスローブを羽織ると、「ふー」と息を吐いた。
「もう70〜80%は完成しています」
お茶を一口ストローで啜ると、清は満足そうな表情を浮かべた。
その絵を観察すると、それはとても特別に丁寧に描かれた甘美で観ていてため息が出るような出来栄えだった。
これだけの少ない時間で、アイリの頭のてっぺんから首筋、乳房、腰つきにいたるまで忠実であることはもちろんのこと、清の水彩画のオリジナリティーも出ている絵に仕上がっていた。
それを見た美咲は、「いける」と心の中で確信した。
つづく
【元記事:B-Search NEWS No.1415】