【特別企画】連載小説「甘美に……」(8)

「魂の画家‐川島清企画展」

大げさなタイトルが付いた企画展が地元の美術館で開催されることになった。新聞の片隅にも広告記事が載った。魂の画家というのは、美咲が思いついたらしい。何でも一心不乱に描き続ける清の姿に、魂を感じたとのことだった。

期間は1ヶ月。清は、たくさんの風景画よりもたった一枚の裸婦画がどのように展示されているのか気になっていた。

家族で訪れた企画展、客はちらほらと入っていた。美術館に自分の絵ばかり並んでいるというのも、気恥ずかしく目を背けたくなるような気持ちになった。

しかし単純にうれしい気持ちにもなった。ついに、ようやく、やっと、ここまできたかと複雑で感慨深い気持ちに清はなった。

まさかこの車いすの男が魂の画家・川島清本人だということは誰も気づいていないようだった。そして美咲に案内されたその先、一番最後に裸婦画は一枚だけ特別に展示してあった。

スポットライトで照らされたその絵の周りには何もなく、特別感が演出されていた。今にも躍動しそうな瑞々しい絵に仕上がっていた。

「その絵、なかなかいいよな。」

気がつくと、裕也伯父さんが立っていた。

「お前、知らないか。弟は、それ描いて死んだんだよな」

そこまで言われて、ようやく僕は分かった。この絵からすべてのストーリーを感じられるような気がした。

「まだ描きたかっただろうな……」

そう言うと僕は、木箱の蓋を閉じた。

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【元記事:B-Search NEWS No.1416最終号】