僕が祖父の家の屋根裏部屋で、その絵を見つけたのは夏休みのことだった。大学生は基本的に暇でバイトに明け暮れていた毎日だったが、ある日、祖父から携帯にメールがあった。
今は、高齢者でも簡単なメールくらいなら打てる時代。内容はと言えば、毎年恒例のお盆に親戚一同が集まるときに屋根裏部屋の片付けをしてほしいとのことだった。もちろん、少しのバイト代は出すとのこと。僕は、金が出るならと引き受けた。相当、処分品があるらしく汚れてもいい恰好をしてくるようにとも書いてあった。
当日は、毎年おなじみのいつもの集まりだった。閑散としている田舎によくある、だだっ広くさびしい祖父の家もその日だけは賑やかになる。祖父は、昼間からお酒が入ってうれしそうだった。
僕は朝早くから一人で来て、半分くらいは片付けが終わったところだった。普通なら謝礼がいくらか気になっているところだろう。でも僕は、さっき見つけた絵のことばかり気になっていた。作者は誰なのか。絵の片隅には、K.Kと書いてあった。
しかし、Kで始まる名前の人は、僕の知る限りではいない。今、集まっている人、一人一人見ても該当する人物はいなかった。一人、魁斗(かいと)という人がいるが、それは3歳の子だった。僕の名字は川島で祖父の家にあるということは、うちの家系にいるんじゃないかと思った。そして僕がモヤモヤする一番の原因は、何よりもそれが女性のヌード絵だったからだ。裸婦画というのだろう。
お昼ご飯を終えると僕は、また屋根裏部屋に向かった。事情を知らない親戚の一人が、あいつは何してるんだと祖父に聞く。祖父は笑いながら、「いやぁ、片付けを頼んだんだ」とまた新しい話に花を咲かせようとしていた。
屋根裏部屋に戻った僕は、もう一度その絵を見つめた。モデルの女性は、30歳くらいだろうか。全裸で立って空を見つめていた。左手を上げて自分のポニーテールの髪を触っている。僕は、その絵に魅了されていった。
まだないかと思って他にも探してみたが、裸婦画はそれ一枚きりだった。
つづく
【元記事:B-Search NEWS No.1409】