第34回「ある恋の記憶(後編)」

初めて会った年から7年が経っていた。その間にもメールはしていた。記録があったので見てみると、返ってこないときが大半だった。

でもぼくは、1年後だったり半年後だったりにメールしていた。年賀状も来る年、来ない年、さまざまだった。会えるチャンスもありそうだったが会うことはなかった。

しかし、2014年に会うことになった。別に、この子のことだけを追いかけていたわけではない。その間に、大きな失恋、小さな失恋を何度か経験していた。経験値が上がった7年前とは違う自分がいた。

ぼくは、待ち合わせ場所である美術館に彼女より先に着いて、ベンチの前でぼーっと待っていた。10分くらいだろうか。エスカレーターで上がってくる女性を見つけた。エスカレーターから下りる瞬間の彼女の力強い一歩を見て、ぼくは確信した。

「この人と付き合いたい」

老けた印象はなく、ぼくの記憶の中の彼女のままだった。お互いいつの間にか30歳になって、彼女はずっと遠いところにいて、もう会えないと思っていた。ぼくの知らないところでぼくの知らない誰かと出会って、ぼくの知らない間に結婚して、穏やかで満ち足りた生活をしていると思っていた。

ところがそうではなかった。絵画鑑賞もほとんど頭に入ってこなかった。終わったあと、年月を埋めるかのように話した。彼女は独身だった。付き合ってる人も今はいないと言っていた。

早く結婚して子どもがほしいというありふれた女性の思いを話してくれた。そして、今はぼくと同じ県内に母と2人で暮らしているということ、以前好きだった職場は離れて新しい会社に就職したけれどなかなか慣れないこと、最近までストーカー被害に遭っていたこと、それにより好きだったインターネットもほとんどやらなくなってしまったこと、いろんなことを話してくれた。

ぼくは、同じ県内に移住してきたことに驚いた。前よりも、すぐに会える距離。小説やドラマだったら、長年の時を経て運命が2人を引き寄せた。となるのだろう。ぼくは、そう思ってしまった。付き合いたいから結婚したいという浅はかな考えに傾いていた。

最後にツーショット写真を撮ったが、ストーカーがどこで見ているか分からないからSNSには上げないでと何度も言われた。

あっけない終わりは、その年の暮れにやってくる。そのときに流行っていたプロジェクションマッピングが近くで行われるということで、彼女を誘ってみた。そうしたら来てくれた。クリスマスをモチーフにしたもので子ども連れの方が多かったように思う。少し斜め方向からだったが、一緒に観ることができた。

とても寒くて、彼女はかなりモコモコした服装をしていた。「最近、これ着てるの」とはにかんだ笑顔が脳裏に焼き付いた。

どうせ振られるのなら、ここで伝えた方が良かったのかもしれない。しかしぼくは、何も告げずに普通に別れた。

何日か経ったあと、自爆するかのように告白メールを送ってしまった。結果は、30分後にはお断りのメールが返ってきた。彼女に出会って12年。それから連絡は取っていない。

無駄ではないと思いたいが、これで良かったのかと今でも時折思う。

【元記事:B-Search NEWS No.1343】

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