「はい。分かりました」
若い女性のお願いには弱い。ただ、安請け合いしたものの、清の最近の絵に対するモヤモヤはどうにも取れなかった。そんな表情を読み取ったのか、美咲はすぐに尋ねてきた。
「何かご不満なこととか、ささいなことでも何かありましたら遠慮なくおっしゃってくださいね」
「僕は、加藤さんに絵そのものをほめていただいて、とても嬉しいのです。ただ、展覧会をやるにはまだ画力もそうですし、人を引きつけるものがないと思うのです。作者が障害者であることを忘れさせられるような絵です。だから今回の展覧会のために、今までに描いたことのないものを描きたいと思っています」
今までの人生で、こんなに熱い言葉が清の口から出てきたことがあっただろうか。清自身も驚いていた。
「いいですね。それは私も望むところです。具体的なイメージとかありますか」
「僕は今まで風景画ばかり描いてきました。そうでなくて、人物画に挑戦してみたいと思っています」
「モデルさんは、いますか」
「人付き合いが悪くて、なかなか自分の知り合いではモデルになってくれそうな人はいません。それに……」
「それに?」
「裸婦画をやってみたいと思ってるのです。」
「ほう、そうきましたか」
美咲は、にやりと笑った。なぜなら、裸婦画は集客力があるのだ。
清は、否定されなくて良かったと思った。
「そうですね。こちらでヌードモデルさんを探す形でもいいですか」
「はい。可能でしたら、よろしくお願いします」
話がトントン拍子に進んでいるのを清は感じた。
つづく
【元記事:B-Search NEWS No.1412】