【特別企画】連載小説「甘美に……」(5)

意外にも引き受けてくれるヌードモデルはすぐに見つかった。セミプロといったところだろうか。30歳で若すぎず、かと言って年もいっておらず、ちょうどいい年齢だと清は思った。モデル料金は、美術館持ちだった。場所は、清のアトリエでいいとのことだった。

家族はその日だけは出禁にした。反対されるかと思ったが意外とすんなりいった。この機会に温泉にでも行ってくるらしい。

すべての条件がすんなりと上手く通り、清のヌードデッサンのためだけに用意されたかのような日がやってきた。

当日、学芸員の美咲がモデルと一緒にアトリエに入ってくる。モデルは、名前を「アイリ」と言った。本名か芸名かは分からないが、地元サークル主催のデッサン会にはよく来ているらしい。

まずは場をほぐすためもあり、三人で雑談した。清は自分が今までどんな作品を描いてきたか自分が代表作と思っているものをいくつかを見せた。

「風景画ばかりで興味ないですよね」と清は自嘲気味に言ったが、アイリは「そんなことないですよ」と微笑した。

今日は天気が良く、清のアトリエに柔らかな日差しが差し込んでいた。アイリの微笑は、そんな感じの優しい微笑みだった。それを見て清は、早く描きたいと思った。

そんな様子を察してか、美咲は「じゃ、そろそろ始めましょうか」と言った。

つづく

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【元記事:B-Search NEWS No.1413】