第24回「名前も知らない人たち」

人生一度きりで、数分しか会ったことのない名前も知らない人のことを覚えている。

学生の頃、病院のロビーで一人で待っていたとき、酸素のチューブが外れたことがあった。外れると漏れている音がするので、分かる人には分かる。ただ、少しの時間なら酸素が無くても大丈夫なので、慌てることもなくほかっておいた。

そうしていると、そばにある多目的室のようなところから人が出てきた。大丈夫ですか?と言われた。酸素のチューブが外れた旨を告げると、着け直してくれた。私服だったが、声をかけてくれたということは医療関係者なのだろう。

次に、恥ずかしながら街コンに参加したことがある。

いくつかのお店を回る地域おこしも目的としたもので、1軒目が終わって、2軒目の入り口の前で待っているときだった。女性のグループも待っていて、ちょうど隣にいた人と「寒いですね」みたいな当たり障りのないことを話していた。

もう少し話したいなと思っていた頃、席が空いたらしくそれぞれ別の席に通された。

ぼくの思い違いだろうけど、店に入っていくときに、その人も後ろ髪を引かれるような素振りを見せていたような気がした。

ぼくの人生に特別な影響を与えなかったけど、忘れ得ぬ人たち。ぼくは、記憶力がいい方では決してない。ただなぜか覚えている。

【元記事:B-Search NEWS No.1333】