3.11

 胸いっぱいの哀しみと、消えてしまった燈のために黒い服をまとって何事もなかったようにワルツを踊ろう。立ち尽くした岐路の真ん中で君のためにも僕が決めよう。たとえ正解でなくてもついてきてくれるかい?内と外、種と畑、引き続けてきた線を描いていた鉛筆が巨きな波に砕かれた、僕らはもうその一線を超えなければいけないようです。
 行く手を阻む神様がいない国で僕らは人差し指に縋っている、なんとなくで選んできた選択肢が押し流される、祈るように重ねた十の指が届くかもわからない慈悲を贈っている。いいんだ、掌に蹲る生活を放たなくても。それぞれに在るそれぞれの道をもう行かなくちゃ、行かなくちゃ。

夢遊病

 続きを失った話と君を求めて、飛び出した街が青く染まっている、僕は小さく泣いてしまって、見えなければいい映像が頭上で旋回、南中に向かう閃光を待ち侘びる群衆を掻き分けていく。傷を洗う酷く冷えた水に知らず知らず色を託して、夏が死んで君は笑って消えた。蝉時雨に濡れた斬頭台、朝靄の天鵞絨、終わりかけた蓮の花弁、それも全部揺らいで消えた。戦うなかれ、君の曙が誰かの精液で濁っている。
 神様のメロディを口ずさんで始発電車はゆっくりとプラットホームに入ってくる。四時台の全貌、狂気のようなキスに込められた遺伝子の存続、ああどうかと洩れだした感嘆符に縋る。論述した技法をそのままに写して、僕の体はひとつの宇宙を遊泳する。さざ波を掻いて酸素を失う僕をそれでも嘲てくださいますか?では、いかがでしょう、怒れる雲に汚された肉を啄んでみては?…悲しい。

 もう動かぬ玩具になった僕を置いて君は立て、進め。それでも憐れむ眼があるのなら、僕の手を取ってくれませんか?渇いた宇宙の一人旅は永遠という無様な名前に讃美され、魂が滅んだあとも肉体が惑星間を回遊!罪人どもの祈る手に今宵も毒降る半夏生。恥じらいながら躍ります、喩えちっとも巧くなくとも。少しの命を差し出して君に行方を委ねよう、饑い夏の薄化粧を剥いで整列する惑星の動きを追う。羇蹊の涯にさんざめく光になったら君の好きな花を手向けてあげよう。さようなら、君が眠る間に地球はもうなくなってしまったよ。最後の日に僕は君の掌の温度を思い出せずに、ただただ空っぽの感情線を見ながら笑っていたんだ。

グッドバイ・モンスターズ

 終夜眠りこけていた、朝が来てなんとなくわかった。あの日、君が投げ掛けたエニグマはそういうことだったんだね。勤めた旭に強請ったところで戻らない可惜夜は忘れます、僕は労働を貪ろう。栄養に溢れた食卓を残さず平らげたら、描かなかった明後日の絵を未完のままにはさせまいと、カルデラのように質量を増した絵筆を取る、取るんだ!
 不義な光を落とすためのランプなら一息に消し去って夜行性の彼らの眼に海を与えよう。恥じた体に這う疑惑、閉じた瞼に浮かぶ映像、深夜三時を報せるポルターガイスト東京湾上空で揺れるドッペルゲンガー。心の寝室で繋ぎ続けていた手を離して、僕も君もきっと明日はここにいないんだ。さようなら、僕らの悪い獣たち、その温もりなら忘れまい。

言葉の羅列

 甘いガムを噛み締めたらいつしか雨はあがっていて、篠崎ランプを越えた後、僕は君を目で追いました。風景になりそこなった若さの影が歪んでも次の花が咲くまでに次の駅には着いてしまう。融けだした身体を寄せて凝固するさよならを覚う、悪い人だ!わからないまま最後の喇叭を聞きました。やがて壊れていく塔を僕はぼんやりと眺めて、通過する車窓の向こうで笑っていておくれ、いずれ手に入れる悲しみ、応えない陽溜まり、ゴミくずと一緒に顔を出した睡眠薬、君との最後の写真なら僕が破いてしまったよ。
 夕暮れになった街角を僕はゆっくり擦り抜けて、千住大橋を過ぎた頃、僕は君を忘れました。謀っては押せないボタンで不発弾ばかり殖えていた、患った恋もそのままに踏みつけた花が乾いていく。この胸に集うのは濡れる漏斗と黙る鳩、期待した分裏切られて心臓が強く育ちます。いつか完成する世界に僕はぽつねんとあります、震えだしたラジオの向こうで蔑んでいておくれ、常に手の中の算段、答えられないテスト用紙、冷たさで色を忘れそうな赤いままの覚醒剤、君との最初の手紙なら僕が破いてしまったよ。