〔中央公論新社・中公新書ラクレ〕
早坂 隆
世界の日本人ジョーク集

世界から憧憬の眼差しが注がれる経済大国?

物真似上手の会社人間?

地球各地で収集したジョークの数々を紹介しつつ、真の日本人像を描き出す。

笑って知って、一冊で二度おいしい本。

(世界の日本人ジョーク集裏表紙より)



新書、といえば教養が書かれた本、というイメージが強くあるのではないでしょうか?

現に、最初に新書を創った岩波新書ではもともと「現代人の現代的教養を目的」としていたそうです。

ですが、今となっては、教養をつけるとともに、分かりやすい、おもしろいと思えるようなタイトルが多く出ています。

そんなタイトルのうちの1冊がこの、「世界の日本人ジョーク集」なのではないかと思います。

これなら高校生や中学生でも読めると思いますし、また、ある程度教養のある方々でも息抜きのつもりで読めるのではないかと思いますし、日本人に対する世界の見方、考え方などが知ることができるので真面目に読んでいくのもいいかもしれません。



タイトルの通り、内容は世界で使われている日本をネタとしたジョークです。

この本を読むと、世界が日本をどう見ているのかが分かります。

また、ジョークを紹介しつつ書かれる解説部には、著者の旅行中の出来事も書かれていて、そういうところからも世界の人々の考える日本人像が分かってきます。



「第1章 ハイテク国家像」には、日本人は不良品を作るにも図面が必要だというような趣旨のジョーク(趣旨だけではどうということもありませんが、そのジョークを読んでみれば面白いんです)を含めいくつか書かれていますが、やはり、日本は仕事が正確で高品質、という印象を持っていることがわかります。

その他、他の国との比較をしているものもあり、他国が世界からどう見られているのかまで分かるので、より面白いのではないかと。

また、最先端技術を持った国であるという見方のほかに真似するのがうまいという見方も根強いようです。

たしかに、8Cの昔から、中国の溶着技術を取り入れ、その技術をさらに改良し大仏造営に至るほか、ポルトガルから銃を作る技術を学び、量産にまで至る技術を獲得するなど、模倣、改良というのは日本の十八番なのでしょう。



「第2章 お金持ちの国」では、昔から言われているように、日本人=お金持ちという図式がそのまま現れているジョークの数々が飛び出してきます。

やはり、海外に行くと日本人がカモにされるというのは、ジョークとして世界に広まっているところからも分かる気がします。

戦後日本の奇跡とも言える高度経済成長がバブル崩壊という形で終わり、景気の低迷が長く続きましたが、世界ではまだ方程式は崩れていないのでしょう。



「第4章 日本人的アイデンティティ」では、沈没寸前の客船から日本人を助ける為には、船から脱出して海に飛び込ませる為に「みんな飛び込んでますよ」と言えばいいということが書かれていました。

制服で整列させられる学生を見て軍隊かと思ったという外国人がいるという冗談も有名ですが、そういうところからも集団行動ばかりしている日本人が見て取れます。

没個性といわれる今日この頃、自己主張の強い外国の方々から見れば日本人には意見がなく、人に合わせてばかりいるように思えるようです。



「第5章 神秘の国ニッポン」では、宗教について、世界との違いがとくに書かれていたような気がします。

世界では、キリスト教、ヒンドゥー教、イスラム教、仏教など様々な宗教があり、それぞれ自分がなんという宗教なのかを自覚して日々生活しています。

ですが、日本では仏教なのか神道なのか分からない、また無宗教だという人(実際にそうなのかもしれませんが)までいます。

そんなことは世界でも稀で、「無宗教だ」といわれた人は少なからず驚きを覚えるようです。

こういうところも、日本人と世界の人との違いとして面白い部分なのではないかと思います。




8章まであるこの本では、世界と日本の違いが多方面から見ることができ、笑いながら世界の国民性も垣間見ることができるので是非読んでいただきたい1冊でした。






満足度:★★★★★

<次回予告:「スパイラル~推理の絆~」>

〔富士見書房・富士見ミステリー文庫〕
壱乗寺 かるた
さよならトロイメライ

「――貴方、名前は?」

 小さな唇から紡がれた言葉が脳髄を打つ。

「藤倉、藤倉冬麻、だけど」

 それが、藤倉冬麻の日常の接続終了。

 田舎町のさびれた高校に突如現れた美少女転校生によって、”私立御城学園”へと拉致された藤倉冬麻・17歳。

全寮制のその学園には<トップ3>と呼ばれる選ばれた生徒が存在し、なぜか冬麻は<トップ3>となっていた――。

「これから泉と冬麻さんはずっと一緒ですっ!」

 冬麻の<パートナー>だと名乗る少女・泉。

「藤倉。まさか反論ではありませんね?」

 冬麻を拉致した張本人、巫城都。

 トップ3とは? 彼らと常に行動を共にするパートナーとは? そして、屋上に響くトロイメライの音色に隠された過去の傷とは――。

 第3回富士見ヤングミステリー大賞<井上雅彦賞>受賞作、新感覚ミステリー登場!

(さよならトロイメライ表紙裏より)



田舎町から突如黒づくめの集団に拉致されるという場面から始まるこのストーリー。

突飛な始まりに興味をひかれ、思わずレジまで持って行ってしまいました。


まず、私は面白くて好きなのですが、書き方が普通の小説と違い、本来、読点が打たれるべき場所に打たれず話が続いたりするので、そういうのが好きではないという方には、「書き方」という面においてお勧めできません。

ですが、書き方にはこだわらない、という方には是非読んでいただきたい一冊です。

また、藤倉視点で大半が書かれていますので、かなりのハイテンションとなっています。

淡々と進む第3者視点からの小説に慣れてしまっている方にはあまりなじみのない文体かと。



話は一言で言うと、主人公の藤倉を拉致した張本人であり、学園の<トップ3>の都、転校先で知り合うことになる<パートナー>の泉、都の<パートナー>八千代、もう一人の<トップ3>春太、春太の<パートナー>かんなのドタバタラブコメミステリーとったところでしょうか。

実際、藤倉の過去、現在を結んだ話に加え、学園で次々と起こる奇怪な事件、やはりライトノベルでは欠かせない(?)恋模様までを250ページと少しで描ききろうというのだから、終始話は急ぎ足で進み、ドタバタしているという印象が拭えません。

よく言えばテンポがある、とも言えますが・・・。

ストーリーは本当にそれだけなので、あとはネタバレを避けるためにあまり触れないことにしておきます。



今回の話で最も注目したいキャラは、藤倉を巡る都、泉、八千代の争いでしょうか。

実際、この巻では八千代はあまり参戦してません、というか全くしてませんが、都と泉の話は面白いです。

始めは素っ気無かった都が最後には藤倉のパートナーにまで立候補してしまう、というところまで態度が変わるんですから人間は不思議です。

また、最初から「トーマさん、トーマさん」と懐いていた泉と比較するのも面白いのではないでしょうか。



ギャグ満載、軽い調子のストーリー、大胆なんだか不器用なんだか分からないそれぞれのキャラクターの恋模様・・・どれもこれもが見ものです。

2巻目に入ればもう少し突っ込んで話も出来ますが、今回はこの辺にしておきましょう。



実際、何の紹介にもなりませんでしたねぇ・・・。





満足度:★★★★☆

<次回予告:「世界の日本人ジョーク集」>

〔講談社・X文庫ホワイトハート〕
篠原 美季
英国妖異譚

湖の妖精に恋した青年ジャックの魂は、新しい肉体を求め、夜ごと彷徨っているという。

 夏の夜、寮生たちが日本の百物語を模して開いた怪談大会。

だが、湖にまつわる忌まわしい伝説が語られた時から、異変が始まった。

 開かずの霊廟で生徒の一人が姿を消し、一緒にいた生徒も悪霊に取り憑かれてしまう。

 湖畔に建つ全寮制のパブリックスクールを舞台に、霊感少年のユウリが活躍する!

 第八回ホワイトハート大賞《優秀賞》受賞作。

(英国妖異譚表紙裏より)


英国全寮制パブリックスクールが舞台、ときいて反応する女性がいるのではないかと思います。(笑)

実際、そういうこともかるーく書かれていますが、1巻目ということもあり、あるのはほんの数ページ。

それと、主人公のユウリとその友人、シモンの友情ともとれるようなものしかありません。

嫌いな方でも読んでいただけるかと。



そして、これが最も難関なのですが、「英国妖異譚」といかにもお堅いタイトルどおり、内容も難しい内容になっています。

大変優秀なんて言葉では表せないほどの天才、シモン・ド・ベルジュ、コリン・アシュレイの2人が出てくることでそれが可能になっているわけですけどね。

英国の妖精に関する深い知識や、そのほか一般の人ではあまり知らないような内容まで2人の天才ぶりを見せ付けるかのように出てきます。

それを読んでいるだけの忍耐力があるか・・・というところが問題ですね。

この1巻目に関してはあまり出てこないですし、出て来てもサラッと読み過ごしていただいてもなんとか意味は通じるはずです。

篠原先生の努力は無に帰すわけですが・・・。



私個人の主観で見れば、全寮制男子校という設定は大丈夫ですし、難しいところも読み流すことにしているので全然読むのが苦にならないわけですが、好き嫌いが分かれるかもしれません。

ページ数も相当多くなっていますしね。



今回のテーマは妖精となっています。

百物語に端を発するポルターガイスト、霊廟で起こった失踪事件、月・水・鏡の繋がり・・・と様々な要素が盛り込まれた一連の事象に、霊感を使っての解決を図るユウリと、知識でどうにかしようとするシモン、アシュレイ3人の活躍がメインとなって話は進み、完結します。

その間には、友人の死、というなかなか受け止めがたいことも起こります。

そのときの反応に、各人の人柄がもっともよく現れ、キャラの性格がよく分かるのではないでしょうか。



もっとも注目していただきたいのは、ユウリを巡ってのシモンVSアシュレイの場面です。

2人とも天才だ、という設定の下話が進んでいくのでとても面白いです。

有名な話からの引用を用いたりすることもありますが、なんだそれと言いたくなる様な本からの出典も多く、篠原先生の知識の幅が伺えます。

で、この回では中盤から後半にかけてでシモンとアシュレイのシーンが見られます。

本当に、このようなシーンのために毎回買っているといっても過言ではないほど面白いです。

シモンの友情とも、それ以上の感情とも取れるほどのユウリへの執着ぶりが。



ホワイトハート大賞優秀賞を受賞するだけの作品だと納得できますので、ぜひ読んでみてください。



満足度:★★★★★

<次回予告:「さよならトロイメライ」>

〔富士見書房・富士見ミステリー〕
松田 朱夏
ハイブリッド・ソウル そして、光の中を

「きみが新しいお弟子さんの竜介くんですね?

竜介っていい名前ですよねぇ。

この辺りは鬼や竜にはいい土地なんですよ」

仏頂面の竜介を見つめ、町で噂のイギリス人・クリスは愛想よく語る。

金髪碧眼の美貌に、流暢な日本語。

袴に手ぬぐいのくだけた和装が、ミスマッチすぎて格好いいような。

「僕の目には、彼の魂はまるで宝石のように青く輝いて見えますよ」

 歯の浮くようなお世辞。しかも電波。

 竜介の腕に鳥肌が立つ――。

 酒涙町随一の旧家・鷹渡家の美少女2人が見習い表具師・竜介の元を訪れたのは、その直後のことだった。

快活な若菜と控えめな従姉妹の薫。

2人にとある掛け軸の鑑定を頼まれた竜介は、鷹渡家でクリスと不愉快な再会を果たす。

その夜、若葉の祖母が不審な転落死を遂げて・・・・・・。

 見習い表具師が表具を通じて人の心の光と闇に迫る職人系リリカル・ミステリー、開帳!

(ハイブリッド・ソウル  そして、光の中を表紙裏より)

この本は、ディズニーランドに行く時に、アトラクションの待ち時間の暇つぶしにはなるだろうと、そう期待して買った本ではなかったのですが、大間違いでした。

むしろ、アトラクションに乗ってる最中も続きが気になってしょうがなかった一冊です。

表具師、という今の10代にはあまり聞きなれない職業の少年の周りで起こる怪事件を中心に進んでいくストーリーです。

事件の謎を解いていく上で重要になってくるのが、クリス、薫、若菜という3人。

江戸時代から現代までの物語を結ぶクリスの存在は、謎めいていて掴みどころなく描かれていて面白いキャラクターですね。

クリスの正体はこちらの想像を裏切らないようになっていますので、物足りないというかたには物足りないかもしれません。

薫と若菜は、現在の関係だけではなく、彼女たちの祖母の世代にまで遡ることで、より事件の核心に近づけるのではないかと。

まあ、今の関係はといえばよくある女の子の関係で、そこだけ見ればつまらないですが、物語を読み進めていくと、今の状況に至る過去の話が見えてきて、一味違うなと思われるのではないでしょうか。

また、注目していただきたいのは竜介が事件に関わっていくことになる最大の要因の薫と若菜の持ち込んだ掛け軸です。

ミステリーですから、あまりネタバレはしませんが、この絵はある西洋画の模写なのですが、その元になっている絵画、そして、模写となる掛け軸を大切に守ってきた人たちの出し方が、時代背景までしっかりと描かれるのですんなりと納得できるようになっています。

ラノベでミステリーに手を出す作家さんに時々見られるような、ミステリーで最も面白くない「そうかな?」と首を捻らなければならない状況がしっかりと排除される形で描かれているので、ミステリー好きの方でも楽しんで読んでいただけると思います。

また、やはりラノベ。恋愛要素も忘れません。

竜介と薫の恋模様もお楽しみに、といったところです。

クリスと八重子さんの関係にもご注目です。

続編が出るものなら読んでみたい、私一押しのラノベです。

結構短いので、読んでみてください。

満足度:★★★★★

<次回予告:「英国妖異譚」>

〔集英社・コバルト文庫〕
野梨原 花南, 宮城 とおこ
ちょー企画本
「ちょー」シリーズファンのあなたに贈る、スペシャル豪華版!
◎主要キャラコスプレパーティー!
◎書き下ろしパロディマンガ
◎野梨原花南vs宮城とおこ座談会
◎書き下ろし短編小説
◎宮城とおこが選ぶモノクロイラストCD[カウントダウン]
◎野梨原&宮城直筆あとがき
・・・などなどスーパー企画がいっぱい!
「ちょー」シリーズをきわめるためには欠かせない一冊!
(ちょー企画本表紙裏より)

かれこれ数年になると思われるこの本との出会い。

初めて買ったイラスト集(?)でした。

今後紹介していくことになると思われる「ちょー」シリーズの歴代の表紙などがこの一冊で一気に見られます。

カレンダーに使われた絵なども宮城先生のコメントつきで拝めます。

とはいえ、タイトルが企画本ですからね、しっかり番外編となる小説も読めます。


まず、「ちょー」シリーズを知らない方のために、1分で分かる「ちょー」シリーズ解説です。

主人公は、トードリアという国の王子ジオラルドとジェムナスティ国の王女、ダイヤモンドです。そして、途中から2人の3つ子のうちオニキスという男の子と、東国からきた宝珠という女の子に視点が移り、最終的には魔王から世界を救っちゃおう、という物語です。実際、国同士の陰謀、魔法使いの思惑、愛憎劇・・・と結構暗めの話ですが、ギャグ満載で面白く、読みやすい話となっています。ただ、魔法使いが出てくることで、セオリーに則りさまざまな人の人格が入れ替わったりしていますので、人物の関係には注意して読む必要があるかと。


イラスト関係で一番お勧めなのは、「宮城とおこが選ぶモノクロイラストCD[カウントダウン]」です。

1位から10位までが宮城先生のコメントつきで紹介されています。

シリーズ後半には見ることのできないタロットワークやパリスなど、シリーズを読み通した読者にはなかなか懐かしく思える1冊になるのではないかと思われます。

1位は・・・見てからのお楽しみということにしておきましょうか。

ただ、私のように文庫だけを読んでいた方には見る機会の無かった(と思われる)絵なので少し残念な気がしなくもありません。

先程書いたように先生のコメントつきなので、何を思いながら書いたかを知ることが出来て楽しいのではないでしょうか。

先生の気に入っている絵と自分が気に入っている絵が同じものだったりして嬉しかったりした覚えがあります。

先生の気に入っている絵は何かを予想しながら読んでみてもよいのでは?


小説は留学生のパイロープとタロットワークの淡い恋物語、といったところでしょうか。

ネタバレをしちゃうと、パイロープの片想いで終わってしまうわけですが。

一番印象的なのはタロットワークの

「今僕、女の子にはかなわないなって言葉が頭を過ぎったんですけど・・・・・・」

ですね。

真理をついてます。(笑)

パイロープの気持ちになって読んでみるとちょっとうるっとする場面があるとかないとか。

乞うご期待、ということで。


他にも、ジオラルド、ダイヤモンド、タロットワークなどのコスプレイラスト、各巻の表紙イラスト、4コママンガ、野梨原先生と宮城先生の対談があり、ページ数的には薄いですが、「ちょー」シリーズファンの方なら十分満足できるだけの量なのでは。

難を挙げるなら、宮城先生の書き下ろしイラストがキャラ紹介と小説の挿絵、4コママンガしかなかったことですか・・・。

宮城先生のイラスト集ではないのでしょうがないですが、1枚でいいから入っていて欲しかったですね。


満足度:★★★★☆

<次回予告:「ハイブリッド・ソウル  そして、光の中を」>