歌を間違えた

日に日に何も考えられなくなっていくので、代わりとばかりに性愛に惹かれていく自分がいて喉が乾く。なぜ生まれたか。見るために。聞くために。読むために。書くために。だけど話すためではないのでこの世界はとても生きにくいですね。完膚なきまでに牙を抜かれた歯抜けの私は己の分身を残そうという本能がどれか分からない。名付けるため。泣くため。でも皆が皆んなを脅すじゃない? 私が取りに行く情報はほとんど全て私を立ち止まらせている気がしてならない。なぜ? なぜなんでしょう。なんでだろうねえ。

24歳

なにも痛くなくて、苦しくなくて、開けた気持ちになれる原っぱに行きたかった。太陽の粒子が肌にさらさらと降りかかっては溶けていく、そんな場所で私はエクセルを開いてvlookupしていたかった。どうして私はここにいるんだろう。なんて寒いんだろう。なんて狭いんだろう。全てを産廃に出したらどんなに気持ちいいだろう。後学のために溜め込んだ資料は日に日に鈍く光を失っていく。時間は有限なのに。いつでも終われるけどいつ終わればいいのかわからない。頭が働かない私の足元は吉祥寺駅のホームをふらふら覚束ない。風に吹かれていても、いなくても。

なにもない23歳の話

今日、後輩が優秀賞をとったことを知った。わたしがどう足掻いても手に入れられなかったそれを彼女はもぎ取った。それに彼女には美大生の彼氏がいて、その子はおしゃれな眼鏡をかけている。かわいい猫も飼っているししかも懐かれている。わたしは彼女と同じ高校を出て、同じ大学を出たけれど、精一杯の7年間を越えて手に入れたものはこのちゃちな立場だけだった。わたしは優秀賞をとったことが無い。わたしは彼氏ができたことがない。わたしは猫に懐かれたことがない。足もくさい。顔も、悪いのを化粧でめちゃくちゃにごまかしている。最近太った。英語ができない。わたしはミラノには行けない。
でも、わたしは社会人なんだからなんだってできるんだって気付いた。まいつきの御給金、その精神安定剤がわたしを自由にする。わたしはもう貧乏学生じゃない。社会に認められてわたしの席がある。内線もある。アドレスも名刺も上司もいて、全部がわたしの存在を証明する。ちんけな食事を更に削りきってまで製作費を捻出する、ぼろぼろの手をしたわたしはとてもかわいいけどとてもかわいそうだ。その眼は明日の朝日を怖がって泳いでいたんだし。

さっき先輩と話したことがすごく光ってガラス片のようにわたしに刺さっている。ただ笑う。それを目標に据える真実。だってわたしのもとに降ってくるお金でミラノでもなんでも行ける。30万円でノーキャリアの人間も展示できてしまう。だったらあのとき彼らに投げた羨望の目線はなんだったんだ? 彼らは少し早足だから? わたしにもできてしまうんだって、彼らは超人ではなかったこと、今ならよくわかる。わたしは彼らの能力が羨ましかったのではなく、単純に人前に立つ彼らが輝いて見えただけだった。能力では、負けていないと思っているから。(彼らが能力だけでそこまで押し上げられたとはとても思えないのだ)
わたしのフィールドには誰もいない。ここで何をするかは自由で、昔のことを気にする必要は無いんだ。それは少し寂しかったけれど、笑うために必要なことだって、今は好ましく思える。

この恋愛が終わるときに全てが終わるのです。おれたちの成長と青春はひと巻きのリボンのようで、連綿と続くその一本におまえの存在がいつからか織り込まれている。そしてこれからも、排除することができない存在としておれを構成するすべてに顔を出すんだろう。莫大な時間と労力をかけてこの場に立ち続けているのは明白、でもおれがここまで費やしたのはおまえがそこに居るからだ。もちろん純粋に、勝つために、真摯に、向き合ってきたけれどおれにはもう、どこからが情熱でどこからが情愛なのかわからなくなっている。おれが勝てばおまえは笑ってくれる。乱れた髪を梳いてくれる。あつい掌で背中を叩いてくれる。そんなのくれちゃうもんだから、おれはもっと打ち込むようになってしまったよ。馬鹿馬鹿しいけど。単純だと笑ってよ。でもそういうの好きでしょう? 実際におれは強いからさ。 このルートでおまえをつけ狙っていたのは、ひとえにおれの幸運がおれたちを結び付けるように働いてくれたからだ。今更そんな浅知恵、使えもしないんだけど。 さあ、軌跡が眩しいばかりに網膜を灼いて、まるで見えない大きな力がそうさせるようにまっすぐにおれの元へ向かってくる。これを決めたら終わりなんだなあ。他人事のように未来を思案する。世の中には終わりがある。リボンを織り始めたときは、そんなこと考えもしなかった。おれも大概アホだなあ。ああ、視覚から伝わる情報がおれの筋肉を収縮させる。ごく自然に、この勝負を終わらせるための一手を決定する。見える。この先。あー悲しいな。勝ち続ければいいなんてウソだ。勝っても負けても、残酷なまでに終わりはやってくる。そんなの分かっていたのに。結末を迎える前に一瞬、あの子の影を見たかったけれど、無意識にぐっと力の篭る身体はその油断を許してくれなかった。血液が轟々唸りをあげて全身を駆け巡る。とても、興奮している。おなじくらい、虚しい。じゃあさようなら。きれいでした。たのしかったです。あと、鋏を用意しといてよ。

正直言うとおれはそんなことどうだってよかった。頂点とか、強いとか、弱いとかもういいんだって。最初はどうだってよくなかったけど、もう違う。出会ってしまって、深くつながってしまって、境界を越えてしまったらもうそれが目的になってしまった。ひとつになっているみたいなんだ。あいつと同じ場所に存在しているだけで。呼吸が一緒になるんだよ。そんなの覚えちゃったらもうだめだよ。愛みたいだし。でもそれが痺れるほど楽しくて、性のにおいすらしたんだ。あの一瞬の触れ合いにすら喉が灼ける。これが終わればおまえはこの手の中に収まってくれる? おまえが決定打を下してくれる? 

あの溶け合う感覚が好きで、名前を呼びあってふるえる空気が好きで、互いのてのひらの間で弾ける汗の粒。俺たちとあつい感情だけが淡い水色の薄膜によって包まれている。何も見えないようですべてが見えている。訳がわからないのに世界の真髄を手にしている。目を開けているのか閉じているのか、止まっているのか動いているのか、二人なのか一人なのか。全部が嘘のようにあいまいで、ただ高みへ上り詰める。上り詰める。はっと目が覚めたときへの恐怖をうすら寒く背中に感じながら、けれど俺たちがそこに存在していることだけは確かなんだ。説明しきれないほどの愛がそこにあることは。そして結末へ。真っ白な終末へ。どこかから響くおまえの声が聞こえているよ。

僕にはビスケットのカスと善い薬があるけれど何故だかまったく満たされない。

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恋にまみれた口が開かない 連れてくる男を間違えたことを手で触れてやっと気づくあたり、俺はさして高尚でもないらしかった。 飲まされている確実な意思 屈辱の目の色 あなたに踏んでほしくてここにいます。 次の電車が音もなく 勝ったように牙を剥いておくれ 知らない人 呼吸とともに体内に犯罪が生きている

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無痛死 
順調なる体温低下
ニコチンが与えてくれたもの
自己破壊に乾杯
ちょうどぴったり一時間
あの子の仮面
切符を無くした
私をどうか清潔だと言ってください、
今は未だ思い出す前
嫌だと思うことはどうしてこんなに多いのでしょうね。

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YES 学習指導 どんなものを食べてどんな空気で生きているの いらないかも ぼくのアパートはひろくてさむい 誰も見てない 努力の残骸を認めてやりたいのだ 肩口に乾いた息、笑っているみたいなリズム 落ちるのは簡単すぎる これほど報われない予感がするのはきっと誰かの警告かもね

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