夏休みが終わって、少しずつ暑い夏が遠ざかっていきます。
もーちゃんは、お空を見上げて不思議そう。
「どうしておひさまは、元気じゃなくなっちゃったのかなあ」
あんなにギラギラと輝いていた光が、少しだけ薄くなったように見えます。
痛かったぐらいの光も、どこか優しくって。
ぬるかった風は、冷たくなっていました。
「おひさま、病気なのかなあ」
もーちゃんは考えます。あんなに元気いっぱいだったのに。
そういえばいつの間にか、お日様が沈んでいく時間も早くなっている気がします。
「おひさまを、元気にしてあげなくちゃ!」
もーちゃんはそう決めると、家を飛び出しました。
広い原っぱに行くと、大きな声で叫びます。
「おーい!おーい!おーひーさーまー!きこえますかー!」
けれど返事はありません。
もーちゃんは、ますます心配になってきました。
少しずつ空には雲が広がってきて、おひさまを隠しているようです。
「どうしよう…」
風が、少しずつ強くなってきました。
暖かかった風は、もう吹きません。冷たくて、悲しい風です。
「…おひさま…」
目の前が、ぐにゅっとなりました。涙の向こうに、おひさまの光が見えます。
その時です。
ふわん、と目の前に小さなどんぐりが浮かんでいました。
「泣かないで、もーちゃん」
「…あなたはだあれ?」
「僕は、秋を知らせるドングリ隊長だよ」
ドングリ隊長はそういって、えっへん、と胸を張りました。
「おひさまは、元気がないわけじゃないんだよ。そうじゃなくて。今、おひさまは『秋のおひさま』になろうとしているんだ」
「秋のおひさま?」
「そう。おひさまは、夏のおひさまから、秋のおひさまに。
そして秋の終わりの後には、冬のおひさまになって、春のおひさまになって…それからまた、夏のおひさまになるんだよ」
「どうして?」
「それはね。世界を秋にするためなんだ。おひさまは、いつだって季節を変えるために少しずつ変わってるんだよ」
「どうして変えるの? もーちゃんは、夏が大好きだったのに」
プールも、スイカも、夏休みも、セミの声も、もーちゃんは、全部が好きでした。
暑くて汗をかいてしまっても、元気いっぱい遊べる夏が、もーちゃんは大好きだったのです。
「世の中にはねえ、いろんな生き物がいるんだ。春の好きな生き物も、夏が好きな生き物も、秋が好きな生き物、冬が好きな生き物。
いろーんな生き物がいるんだ。おひさまは、じゅんばんじゅんばんに、みいんなのお願いをかなえてくれてるんだよ」
ドングリ隊長はにっこり笑っていいました。
「ほら、見てごらん。トンボだよ。あんなに喜んでいる」
ドングリ隊長の指さす方には、確かに楽しそうに空を飛んでいるトンボが見えます。
「夜には、虫たちが演奏会を開くよ。秋のおひさまになったことを、喜ぶパーティなんだ。
葉っぱ達も、秋を喜ぶファッションショーを開くし、たくさんの果物も、大きく美味しくなる」
ざあっと風が吹きます。
冷たくて、寂しい風が。
「…また、夏にしてくれる?」
もーちゃんの質問に、ドングリ隊長はうなづきました。
「秋が終わって、冬が終わって、春が終わったら、夏だよ。
そうそう。夏を知らせる隊長もいるから、来年の春の終わりには探してみてね」
それから、とドングリ隊長は続けました。
「秋には、楽しいことも美味しいこともうれしいことも、たくさんあるよ!
たくさんいい思い出を作って、来年また僕と会えた時には、喜んで欲しいな」
「うん」
もーちゃんはうなづいて、それからお空を見上げました。
元気がなく見えたおひさまは、どこか優しくゆったりとして見えました。
やわらかい日差しが、雲を通してもーちゃんに降り注ぎます。
ひんやりとした風は、もーちゃんの胸の中をゆっくりと通り過ぎて――。
ぐううううっ。
もーちゃんのお腹の虫と、何かお話をしたみたい。
「お腹すいたなあ」
もーちゃんの言葉に、ドングリ隊長は言いました。
「そろそろおうちにお帰り。きっと、おいしい秋の幸が もーちゃんを待ってるよ」
「うん。またね、ドングリ隊長」
「うん。また」
もーちゃんは手を振ると、おうちに向かって走り出しました。
おうちからは甘酸っぱくて優しい秋のにおいが、している気がしました。
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個人的には秋は一番好きな季節です。
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